金木犀

 

 

男との別れ際、好きな花を教えておけ
花は年に一度咲くからその時思い出されるようにって川端康成は言ったけど

ずるいから私、年に一度じゃ嫌だから私、
別れた時、彼奴に、私の好きな花は金木犀、覚えておいてねって言った

春と秋、年に二度、私のこと思い出してね
あの甘ったるく漂う香りに
もう一度、もう一度と吸い込みたくなる
脳にまとわりつくような香りに
いつもどこか触れていたくて仕方なかった
貴方にとっては鬱陶しい、私を重ねて
ちょっとだけ、嫌な気持ちにでもなって下さい

貴方がそんなちょっとした不幸に苛まれていると思うと、私は少し、気が晴れます

まぁ、貴方はこんな話、とっくに忘れて
ただただ、金木犀の良い香りを胸いっぱいに吸い込んで、吐き出して、繰り返し、繰り返し
季節の変わり目なんかを感じて
ただただ、貴方の生活してるかもしれないけれど
その真偽を知る術もない私はまだ
貴方とのこんな会話を覚えてるから
今日も死にたいが頭を掠めるよ